『邂逅の海―交差するリアリズム』las barcas展評
2018.02.23
2018年2月4日に沖縄県立博物館・美術館で開催されたlas barcasメンバーによるギャラリートークの報告記事と、国立台湾大学大学院修士課程を修了したサブリナ・チュン氏による展評が2月22日付の沖縄タイムスに掲載されました。
サブリナ氏の展評のみになりますが、ぜひご覧ください。
不協和音が反復する空間
『邂逅の海―交差するリアリズム』の第2章「言葉―美術などのジャンルを超えた表現の多様性」の展示を訪れた。キュレーターの岡田有美子は「往復書簡」という比喩を用いて、作家名や作品名を極力排しながらも、それぞれの繋がりを作ることを試みていた。この比喩を頼りにすることで、小舟や櫛、海や水に関わるイメージなどの反復や応答を展示から見ることができる。
洞窟の岩を滴り落ちるほのかな水(山城知佳子「黙認のからだ」)、女性たちが夢中になりかき回す水(山城「コロスの唄―Life Field―」)、岸辺に向かう小さな貝殻がもたらす波(阪田清子「Hair brush No.11」)、言語と感覚を無効にするかのように高く襲いくる波の破壊性(尾形希和子「言語の海で」)。繰り返される水のイメージは相互に応答し、反響する感覚を作り出しているようだ。
微細なイメージとして挙げられるのが光の動きだ。会場入り口に、仲宗根香織の写真作品「光を追いかける」がある。フィルムに焼き付けた過度の光量を受け入れるこの作品は、反対側に展示されている根間智子「Paradigm」の作品群に呼応する。アクリル板に収められた点の写真作品では、滑らかなプラスチックの表面にイメージそれ自体が反射している。「光を追いかける」で捉えられた光のイメージと似た、微かな光線が「Paradigm」を展示している壁の前の床に意図的に配置されたかのように反射している。
しかし展示を構成するイメージがみせる類似や接点にもかかわらず、「las barcas」が提示するテキスト、インスタレーション、音などは決して互いに一致することがない。
例えば、広大な海に浮かぶ複数の小舟の様子が表現されているテキスト「漕ぎ出す前に」と、塩の結晶で舟の形を作った阪田のインスタレーション「ゆきかよう舟」は、連帯と孤独の感覚や物語の始まりと終わりの予感、言葉を交わすことの可能性と不可能性などを喚起し、異なるイメージ間の衝突を引き起こしている。
さらに他の作品から立ち上がるわずかな流水音、滴る音、跳ね返る音、打ち砕く音などは、展示会場全体に反響する不協和音の反復を作り出している。
互いに呼応したり、撹乱したりする不穏な表現は、同一性または調和したものから脱出し抵抗していく。そしてlas barcasとそのメンバーたちの作品を呼び出した不協和音は、未知の他者、場所、事柄への返答になるはずだ。
(国立台湾大大学院修了=文学研究・サブリナ・チュン、訳・仲宗根香織)