las barcas 音楽とアートの旅を。

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las barcas 04 書評

2017.11.27

11/16付沖縄タイムスに、明治大学教授で近現代美術史・写真史研究の倉石信乃氏にlas barcas04の書評を書いていただきました。

倉石信乃氏(明治大教授)

 アートと批評の雑誌『las barcas(ラスバルカス)』4号が刊行された。誌名はスペイン語で小舟の意。先鋭的な内容はそのまま、読者にも「乗り」やすさを感じさせるタブロイド判となった。英文の要約が付いている。

 沖縄戦の激戦地が「華やかな商業区域」と化しているギャップを前に、編集者の親川哲はもがきながら、死者への共感を安易に迫る動向に抵抗する一文を寄せた。かかるもがきにしか真率な問いの深化はない。

 キュレーターの岡田有美子はキューバで遭遇したフィデル・カストロの葬儀に、堀田善衛の『キューバ紀行』を重ねて、「革命」の首尾を慎重に推量する。
 一橋大准教授の井上間従文が説くアートにおけるアマチュアの効用に、「恥じらい」という契機が導入される所で虚を突かれた。それは「プロ」の芸術的形骸を除きピューリファイ(純化)するために、欠かせぬ倫理の仕草(しぐさ)であろう。

 沖縄というアポリア(難問)を犀利に粘り強く思考してきた琉球大教授の新城郁夫は、寛いだ手触りのエッセーを綴った。そこには顔の帰属をめぐる、切迫したポリティクスも刻まれる。

 ゲストで気鋭の写真研究者ダン・アビーは、日本写真史の結節点を成す同人誌『プロヴォーク』の政治的・美学的可能性を、従前の類型化した評価や近年の謬見を排して的確に見いだそうとする。

 美術家のミヤギフトシとエデュケーターの町田恵美の報告は、マイノリティーである日系米人の軌跡を探ることの今日的意義を教えている。フォトネシア沖縄事務局の任務で台湾写真を取材した写真史家友寄寛子からは、アジア写真史の編成をめぐる胎動の一端が感じられた。

 本誌の魅力は誌面の創出それ自体にも負う。美術家根間智子の鮮烈なネガ・ポジ反転像は、常在の闇=不可視性の深奥を裸出させる。対照的に写真家仲宗根香織の写真は、無軌道で断片的な光の把捉しがたさに従う、向日性の価値を識らしめる。その散漫な光景は、沖縄をめぐる頑迷な定義集を承認しない、しなやかな意思のアレゴリー(寓意)と読まれうる。

 同様の光反応から結晶の生成を字義的に行うのは、美術家阪田清子のドローイングであり、それは記憶との同形的連関へと繋げられる。
 かくも多様で充実した雑誌が、軽やかな佇まいで出帆した。きっと遠くへ到るはずだ。

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